千葉地方裁判所 昭和37年(ワ)341号 判決
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〔判決要旨〕生活上及び子供等の勉学上の必要から地主に無断で判示の増築(註、従前、木造杉皮葺平家建居宅、建坪一一坪を、木造亜鉛葺二階建居宅、建坪一三坪五合、二階三坪七合五勺に増築)をしたもので、しかも従来数回にわたる無断増築につき苦情も異議もいわれなかつたこと、その他判示のような事情があるときは、賃貸借関係の基本関係である信頼関係を破壊するものとして契約の解除をなしえない。
〔判決理由〕弁論の全趣旨によつて、之を観ると、原告の為した右意思表示は、形式的には右の通りであるけれども、実質上は、被告の所為が契約に違反するものであることを、その根本の理由としているものであることが認められるのであつて、而も、その契約違反の所為が、賃貸借関係の基本関係である信頼関係を破壊するものである限り、賃貸人は、その契約違反を理由として、契約の解除を為し得るものであるから、原告の為した、前記契約解除の意思表示は、被告の契約違反が信頼関係を破壊するものであることを理由として、これを為した趣旨をも包含するものであると解し得られるので、被告の前記契約違反の所為が、信頼関係を破壊するものであるか否かについて、審按するに、証人<省略>の証言と被告本人の供述と検証の結果とを総合すると、被告には、三名の子供があつて、夫々、生長し、長男は大学に、その他は高等学校等に在学し、生活上および子供等の勉学上の必要から、止むなく、前記増築を為し、而も、従前、数回に亘つて原告に無断で、風呂場、台所等の増築を為したに拘らず、原告から何の苦情も異議もいはれなかつたので、右増築についても、これと同様であろうと信じ、原告に無断で、前記増築を為すに至つたものであること、およびその増築の為された個所は、本件土地の片隅であつて、同土地の使用については、従前の使用状況を殆んど変更するに至つて居ないものであること、並に増築の建坪が僅少であること等の事実が認められ、以上の認定を動かすに足りる証拠は全然なく、而して、これ等の事実のあることと弁論の全趣旨とを総合して考察すると、被告の為した前記契約違反の所為は、未だ、信頼関係を破壊する程度には至つて居ないものであると判定するのが相当であると認められるので、被告の右所為は、信頼関係を破壊するものではないという外はなく、然る以上、原告は、契約の解除権は、これを取得して居ないことになるものであるから、原告の為した前記意思表示は、右のように解してもなお無効であるといはざるを得ないものである。(田中正一)